[5]アメリカン ビッグ ママ

僕を捜したグレーナ


ユタ州の田舎町、ブランディング。公共施設以外にこれといって目立つ建物もない、こじんまりとした町だった。




スーパーの前にあった寂れた公衆電話から日本に電話をかけていた時、

「ヒロ!」

と僕の名を呼ぶ声がした。


振り返るとグレーナが笑顔で立っていた。




「探したわよ。よかったら私の家に泊まっていかない?」




彼女とは、数時間前に図書館で初めて会ってすこし会話を交わした程度だったが、僕のことが気になり町中を捜していてくれたらしい。


そのやさしさに驚きつつ、僕はグレーナの言葉に甘えて彼女の家でお世話になることにした。




もうひとつのアメリカらしさ


グレーナには高校教師の夫マイケルと3人の子どもがいた。


その夜「NBAを観に行こう」とマイケルに誘われ、訳がわからぬままついていくと、着いたのは彼の職場の高校だった。


鍵を開けて教室に入るなり、彼は巨大なスクリーンを壁際に広げ、NBAの試合中継をそこに映し出した。



観ているうちに「教室で勝手にNBAなんか観ていて問題にならないのだろうか?」と次第に不安になってきた。


そのとき教室の扉が「ガチャ」と開いた。

「やばい。守衛さんかも」と思った次の瞬間、「おふたりさん、アイスクリームを持ってきたわよ」と屈託のない笑顔でグレーナが入ってきた。




誰も何も心配などしていないし、リラックスして今を楽しんでいる。

目の前にどんとおかれたキングサイズのアイスクリームを見て、「僕は今、アメリカに来ているんだ」と実感した。




アメリカのハートに触れて


明くる日はハロウィン。

この日は車で町を案内してもらうことになった。


町のあちこちはハロウィン一色に染まり、道行く子どもたちはみなそれぞれのキャラクターに扮して楽しそうに歩いている。




家に戻り、グレーナといっしょにハロウィン恒例のオレンジカボチャでオバケ作りをしていると、さっそく近所の子どもたちが家を訪ねてきた。

玄関には、スパイダーマンや天使の格好をした子どもたちが瞳をキラキラ輝かせて立っている。

お菓子を手渡すと「ありがとう」とだけ言い残し、彼らはまた次の家へさっそうと向かうのであった。




ハロウィンの興奮も一段落し夜も更けて来た頃、僕はグレーナにひとつ質問をしてみた。


「どうして見ず知らずの僕にこんなに親切にできるのですか?」と。


ずっと気になっていたことだった。

すると彼女はニコッと微笑みながら、




「私はあなたから夢を成し遂げようとするパワーをもらっているの。だから、こちらこそ家に来てくれてありがとうと言いたいわ」




テロに戦争。昨今のアメリカを取り巻く状況は決してよいとは思えない。

しかし、僕はこの国に来てからもたくさんの人に助けられている。


アメリカに限らず、「国」ではなく「人」という視点から見れば、宗教や習慣の違いはあるにせよ、根本的な部分は何も変わらないのではないだろうか。

少なくとも僕はそう信じたい。




グレーナたちと別れてからもう一年が経つ。

先日、彼女からメールが届いた。その内容はこうだった。




「私たち夫婦は長年の夢であったアラスカに移住してきたの。そして、ついさっき仕事も見つかったわ。私たちはやったのよ! ビッグママより」




ビッグママ、今度はアラスカで会おう。



この風景。ここまで来たかいがあったなと思う瞬間

片時もブレーキレバーから手を離すことができない断崖の道。
アリゾナ州の隣、ユタ州にあるキャニオンランズ国立公園・シェファートレイルロードのダウンヒル

ユタ州アーチーズ国立公園の中にあるアーチ。
急な斜面を登りきると、忽然と姿を現した。
この国立公園内には無数のアーチが存在する

こんなに大きなアーチもある。
ユタ州にはピカソや岡本太郎も
思わず首を傾げてしまうような不思議な岩が多い。
これが「岩の芸術の州」と呼ばれている所以だ

“ビッグママ”グレーナとマイケルと僕。
最高の思い出をありがとう



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