[4]テスリンレイクの畔にて

デニスとの出会い


 カナダとアラスカを結ぶ道、アラスカン・ハイウェイ。

 この道は、太平洋戦争中に作られたといい、ただひたすら1442マイルにも及ぶ道が続いている。


 道中にある150人足らずの小さな村・テスリンの手前で、自転車に乗ったデニスという地元のおじさんと出会った。


 彼は怪我で足を手術したため、リハビリを兼ねて自転車で村まで向かっている途中だった。

 僕らはなぜか意気投合してしまい、彼に村を案内してもらうことになった。


 この村にあるのは、商店・村の歴史館・剥製動物館、それにガソリンスタンドと先住民の歴史館。

 何だか「館」だらけで怪しい感じがしないでもないが、村は澄み切った水を蓄えたテスリンレイクの湖畔にあり、この湖の美しさは特別だった。


 デニスに村を一通り案内してもらったあと、この日は彼の家に泊まらせてもらうことになった。


 「自分で建てたんだ」という彼の自宅は、ドアがうまく閉まらなかったりして手作り感にあふれている。

 居間にある薪ストーブが、何ともカナディアンらしい。


 そのうちデニスは「サーモン漁に行ってくる」と言い残して出かけてしまったので、僕は一人、家の裏にある夕暮れ時のテスリンレイクへと向かった。


虹の美しさに心を奪われて


 そして湖に出たところで、僕の心は完全に奪われてしまった。


 雨など一滴も降っていないのに突然虹が現れ、凪の湖面にも反射して映し出されているのだ。


 辺りは徐々にオレンジ色に染まっていき、刻一刻と色調を変えていく。


 自然が織りなす芸術的な造形美を前にした僕は、しばらくの間その場を動くことすらできなかった。


もし本当に天国があるとすれば、それはカナダかもしれない


ふたりっきりのコンサート


 その夜、元ストリート・ミュージシャンだったというデニスが、ギター片手にオリジナルソングを披露してくれた。


 静まり返る深い森の中を、哀愁漂うオヤジのハスキーボイスがこだまする。

 結局、演奏は2時間にも及んだ。


 そして迎えた3日目の別れの朝。

 

 彼を紹介した新聞の切り抜きと自作のCDまでプレゼントされた僕は、「たまには、オレとここテスリンを思い出してくれよ」と見送られて彼の自宅を後にした。


 今でも耳を澄ませば、あのハスキーボイスが聞こえてくるような気がする。


 遠く離れた海の向こうに、忘れられない人がいる。




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