デニスとの出会い
カナダとアラスカを結ぶ道、アラスカン・ハイウェイ。
この道は、太平洋戦争中に作られたといい、ただひたすら1442マイルにも及ぶ道が続いている。
道中にある150人足らずの小さな村・テスリンの手前で、自転車に乗ったデニスという地元のおじさんと出会った。
彼は怪我で足を手術したため、リハビリを兼ねて自転車で村まで向かっている途中だった。
僕らはなぜか意気投合してしまい、彼に村を案内してもらうことになった。
この村にあるのは、商店・村の歴史館・剥製動物館、それにガソリンスタンドと先住民の歴史館。
何だか「館」だらけで怪しい感じがしないでもないが、村は澄み切った水を蓄えたテスリンレイクの湖畔にあり、この湖の美しさは特別だった。
デニスに村を一通り案内してもらったあと、この日は彼の家に泊まらせてもらうことになった。
「自分で建てたんだ」という彼の自宅は、ドアがうまく閉まらなかったりして手作り感にあふれている。
居間にある薪ストーブが、何ともカナディアンらしい。
そのうちデニスは「サーモン漁に行ってくる」と言い残して出かけてしまったので、僕は一人、家の裏にある夕暮れ時のテスリンレイクへと向かった。
虹の美しさに心を奪われて
そして湖に出たところで、僕の心は完全に奪われてしまった。
雨など一滴も降っていないのに突然虹が現れ、凪の湖面にも反射して映し出されているのだ。
辺りは徐々にオレンジ色に染まっていき、刻一刻と色調を変えていく。
自然が織りなす芸術的な造形美を前にした僕は、しばらくの間その場を動くことすらできなかった。
ふたりっきりのコンサート
その夜、元ストリート・ミュージシャンだったというデニスが、ギター片手にオリジナルソングを披露してくれた。
静まり返る深い森の中を、哀愁漂うオヤジのハスキーボイスがこだまする。
結局、演奏は2時間にも及んだ。
そして迎えた3日目の別れの朝。
彼を紹介した新聞の切り抜きと自作のCDまでプレゼントされた僕は、「たまには、オレとここテスリンを思い出してくれよ」と見送られて彼の自宅を後にした。
今でも耳を澄ませば、あのハスキーボイスが聞こえてくるような気がする。
遠く離れた海の向こうに、忘れられない人がいる。
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