〜ナバホインディアン居留地にて〜
「プシュー」
パンクの音で立ち止まり、「チクショー」と言いながら路肩に寄って修理をする。
赤茶けた大地と刺々しいブッシュが地平線まで続くアメリカ南西部、アリゾナ。
目の前には、アメリカの西部劇で見たことのある早撃ちガンマンや羽飾りを身にまとったインディアンが、いつ現れてもおかしくないような世界が広がっている。
僕が初めて海外を夢見た10年前、最初に思い浮かんだのがこのアメリカの原風景だった。
当時、「いつか海外を走ってみたい」と母に話し、鼻で笑われてしまった場面を、僕は今でもよく覚えている。
そんなことを思い出しながら、タイヤに刺さった植物のトゲをペンチで引っこ抜き、再び走り出す。
このトゲには連日悩まされたけれども、次第にこの乾いた大地で生きる生命力とたくましさ、その姿形を愛おしくさえ思い始めている自分に気づいた。
ふと上を見上げると、ペンキで塗りたくったような深い青が、どこまでも続いていた。
アリゾナを含む近隣の3つの州には、アメリカ最大のナバホインディアン居留地「ナバホネイション」がある。
一口に居留地と言っても、その自治権はとても強い。
小さなスーパーに一歩足を踏み入れると、そこにはこの大地のような赤茶けた肌の色をしたナバホ人しか見当たらない。
まるで、どこか違う国に来てしまったようだ。
近年、ナバホの若者の「アメリカ化」が進んでいると聞いたことがある。
しかし、町で見かけた老婆が身につけていたナバホの装飾品であるターコイズと銀のアクセサリー、そして彼女の顔に刻まれた深いしわから、何も言わずとも部族としての強い誇りと歴史が伝わってきた。
僕が出会った白人たちとの会話では、「いまだに電気のない暮らしをしている人もいて野蛮だ」「働かないアルコール・ドランカーが多い」などと、彼らに対して批判的な言葉を何度か聞いた。
一方では、「僕たちの暮らしは、とてもエコノミーなんだ」と、仲良くなったナバホ人のジョーが3本しかない前歯を見せながら話す。
インディアン迫害の歴史は、もう遠い昔話のように聞こえるが、いまだにその歴史の後遺症や、白人社会との格差は存在していると思う。
「自由な国アメリカ」
しかし、差別、犯罪、戦争など、さまざまな問題がそこにあるからこそ、人々は本当の「自由」を叫び続けるのかもしれない。
産休を取ってアメリカを回っているドイツ人一家に遭遇。
後ろには赤ちゃんと子供が静かに座っていた。
居留地内には、テーブル型の台地やビュート(岩山)が不規則に点在する、西部を代表する景勝地の一つである<モニュメント・バレー>がある。その中でも有名な3つの巨大なビュートの迫力には度肝を抜かれてしまった。特に、辺り一面が真っ赤に染まる夕暮れ時、ビュートはまるで燃え上がる炎のようになる。見る者は言葉を失い、瞬きするのも忘れてしまうほどだ。僕自身もビュートの神々しさに惹かれ、3日間もこの場所で身動きができなくなってしまった。
そして夜には、満天の星空と数えきれないほどの流れ星たち。
地球も広い宇宙の中の一部なのだと、この場所は教えてくれた。インディアンは、精神的な世界やシャーマニズムを信じているというが、この圧倒的な自然環境の中に身を置いていると、そんな不思議なエネルギーが宇宙から伝わってくる気がしてくる。そんなことを、夜空にかかる天の川を見ながら思った。
*アリゾナ州——州都及び最大の都市はフェニックス。アメリカの南西部に位置し、サボテンを含む典型的な砂漠の風景で有名である。現在ではハイテク産業の一大拠点となっており、先住民であるアメリカインディアンの州人口に占める割合は5%。