ビリーの笑顔
旅の始まりでさっそく軽い肺炎にかかってしまった僕は、小休止するために見つけた宿でビリーという女主人と出会った。
ビリーは毎朝手作りのシナモンロールをくれたり、寝込んでいる僕にわざわざ声をかけにきてくれたりと、自分にとってはやさしい「アラスカの母」のような人だった。
しかしその2カ月後、カナダを走行中にカヌーイストでビリーの友人だという人に偶然出会った時、ビリーの長男は数年前のアフガニスタン戦争に出兵して命を落とし、彼女は最愛の息子を亡くしたストレスから一時は精神的に不安定になってしまったんだ、と聞かされた。
その悲しみをそのときは微塵も感じさせなかった。
ビリーのあったかい笑顔。
誰もが何かを背負って生きているのだ。
エドとの再会
10日目の朝。ビリーと抱き合い、宿をあとにした僕は、フェアバンクス郊外にある、自分を病院へ運んでくれた救急隊員のエドのお宅へと向かった。
彼にもう一度会ってちゃんとお礼を言いたかった。
自宅前へ着くと、エドはちょうど出かけようとしているところだった。僕が「この前はありがとう」と声をかけると、彼も再会を喜んでくれて、これから始まる河原でのパーティーに一緒に行こうと言う。
こうして、僕はまた彼のピックアップトラックに乗り込み、今度は病院ではなくパーティー会場へと向かった。
そしてパーティーの帰り道、彼の家の裏を流れている小川にカヌーを浮かべて乗せてもらった。
アラスカに魅せられて、数年前にアメリカ本土から家族で移住してきたんだ、そうエドは言った。
結局、その日はエドの家に泊めてもらうことになり、夜は焚き火を囲みながらいろんな話を聞いた。
エドの奥さんのアネがアラスカのエスキモーの村で学校の先生をしていた話。
キャンプ中にグリズリーに遭遇した話。
冬のアラスカとオーロラの魅力。
リアルな話に時間が経つのも忘れ、ふと気がつくと午後11時になろうとしていた。
しかし、辺りはまだ明るい。夏のアラスカの一日は長いのだ。
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